植物と昆虫 どっちがすごい?

植物や昆虫の生態や生存戦略から、人間の生き方を学ぶネイチャー・ライティング

 「トンビがタカを生む」は本当にありえないか?  

自然が豊かなことの証明として生物多様性ということがよくいわれますが、「ワシ・タカ類がいる」というのも豊かな森を示しています。「ワシ・タカの森を守れ」ということで、自然保護団体なんかが訴えていますよね。あれはそれだけ豊かな自然だからと言っているわけですよ。

ワシ・タカ類がいると、なぜ豊かな自然と言えるのか。ワシ・タカ類は、食物連鎖でいくと最上位者です。ワシ・タカ類を食べる動物はいません。彼らは野ウサギや野ネズミ、ニワトリなど小型の鳥も食べます。野ウサギがたくさんいるためには、草がたくさん生えている場所が必要だし、野ネズミがたくさんいるためには、どんぐりなど木の実がたくさん必要だし、小型の鳥がたくさんいるためには、小さな昆虫がたくさん必要です。野ウサギ、野ネズミ、小型の鳥がいるということは、それだけで生物が多様だということなのです。

そのワシ・タカ類は、フクロウなどを含めて猛禽類と呼ばれます。なんだか強そうな名称です。実際、食物連鎖の最上位者だから強いわけですけど、そんなイメージもあって、ホークスとかイーグルスなんて、野球チームの名前になっていますよね。

このワシとタカ、何が違うのでしょうか?

実は生物学上の違いはありません。同じタカ目に属するもののうち、比較的大型のものをワシ、中型のものをタカと呼ぶというのが基本です。

でも、ややこしいのが、この基本に沿わないものがいるのです。郊外の森などでもたまに見られるクマタカカンムリワシでは、羽を広げたとき、クマタカのほうが大きいのですよ。

では、ここで問題です。

「トンビがタカを生む」のトンビと、ワシ・タカの違いは何でしょうか?

正解は、トンビもタカ目で同じ仲間です。タカよりもさらに小型のものをトンビ(正しくはトビ)というのですね。

見た目はワシ・タカをそのまま小さくしたような感じ。でも、狩猟だけでなく、人間に慣れて残飯をあさるような雑食の性質を持つことから、昔から鷹狩りで有用な鳥類とされてきたタカよりも一段劣ったものとみなされてきました。それが「トンビがタカを生む」の由来でしょう。

でも、トビだって狩猟能力は高いのですよ。私が学生時代に友人と行った江ノ島で、友人がハンバーガーをトビにさらわれたということがありましたからね。たぶん、小回りが利くのでそういうことができるのでしょう。そういえば、「トンビに油揚げをさらわれる」のことわざもありましたね。狩猟能力はトビも決してワシ・タカに劣ってはいませんよ。

その証拠に「鳶職」というのがありますね。高所を俊敏に移動する様子から、鳶が採用されたのでしょう。鳶の名誉が回復されたといえるかもしれません。

それに、鳶は英語で「KITE」と言います。そう、「ゲーラカイト」のカイトですね。洋風の凧のことですよ。これもやはり俊敏に大空を飛び回るイメージです。ホークス、イーグルスに対抗してカイトズなんてチーム名もいいかもしれません。

「トンビがタカを生む」のことわざは、平凡な親から優秀な子が生まれることのたとえですが、このトンビのイメージを採用するなら、鳶職の人に失礼でしょう。タカもトビも同じタカ目なのだから、優劣を云々すること自体意味がないこと。人間が決めた優劣なんて、自然界では関係ないのですから。