植物と昆虫 どっちがすごい?

植物や昆虫の生態や生存戦略から、人間の生き方を学ぶネイチャー・ライティング

 見えているものがすべてではない?  

「日が長くなりましたね」

春先に交わされる会話で季節を実感することはよくありますね。日頃、草木の成長で季節を感じることは少なくても、日の入りの時間は比較的わかりやすいのです。実は日の入りの時間が最も早いのは、東京では11月29日の16時28分です。この時間に日が沈む日が12月12日まで続きます。13日になると日の入り時刻は16時29分になり、だんだん日没が遅くなっていきます。冒頭のセリフは春が感じられる4月、5月によく聞かれますが、実は12月からもう「日はどんどん長くなっている」のです。

一方、日の出の時間は、1月1日が6時51分と最も遅くなり、その後どんどん早くなっていきます。冬至の12月21日ごろは昼の長さが最も短い日であるわけですが、この日は日の出が最も遅くなり、日の入りが最も早くなる日なのではなく、だんだん日の出が遅くなる途中であり、だんだん日の入り早くなる途中の日であることがわかります。日の出と日の入り時刻の相関で「最も昼の時間が短い」日になるのが、冬至というわけです。

これは夏至にも言えます。夏至はだいた6月21日ごろですが、6月上旬に最も日の出が早くなり、6月下旬に最も日の入りが遅くなります。

というわけで、夏至の時期に最も昼の長さが長くなり、冬至の時期に最も昼の長さが短くなるのですが、それならなぜ気温は夏至の時に最も暑く、冬至の時に最も寒くならないのでしょうか?

最も暑い時期は気温で見るとだいたい7月下旬から8月下旬ごろ。最も寒い時期はだいたい1月下旬から2月下旬ごろ。暑さも寒さも、夏至冬至の時期と比べると1か月から2か月遅れてやってくるようです。

このタイムラグがなぜ起こるかというと、地面が温められるのに時間がかかるからです。太陽が出ている時間がどんどん長くなるにしたがって地面は温められていき、さらに太陽が真上から照らされるので、気温はどんどん上昇していきます。地上の気温は地面が温められるほどに高くなります。6月から温められた地面がピークに達するのが7~8月になるというわけです。

同じ理由で冬至のときよりも1、2か月遅れて寒さのピークがやってきます。冬至のころはまだ夏の暑さが冷めきっていないから、まだ気温はそれほど低くならないということです。

夏至を過ぎるとどんどん昼の時間が短くなっていくのに気温は上がっていったり、冬至を過ぎるとどんどん昼の時間は長くなっていくのに気温が下がっていったりするのは不思議な感じがします。地表と地中では様子が違うのですね。

表に現れている現象とその裏で起こっていることは別だということです。夏の暑い盛りには、もう冬への下準備が進んでいるし、冬の寒さのピークには、もう夏へのカウントダウンが始まっているのです。

あらゆるものごともこれと同じで、いいことが起きてもそれは長くは続かず、その裏では悪いことが進んでいることもあります。逆に、悪いことが起きたその裏では、よいことが進んでいることだってあります。ついつい表に出てきた、見えるものばかりに目を奪われがちですが、実はその裏では次への物語が周到に用意され、着実に進展しているのです。

そう考えたら、表に出てきた、目に見える事柄に一喜一憂しないで、裏にあるものを見ようという気になります。「万物は流転する」「不常(つねならず)」と思えば、気が楽になるというものです。