植物と昆虫 どっちがすごい?

植物や昆虫の生態や生存戦略から、人間の生き方を学ぶネイチャー・ライティング

 富士山は「新しい山」

西之島がいま大変なことになっています。西之島は、東京から1000キロ以上も離れた絶海の孤島小笠原諸島の西にある小さな無人島でした。しかし、2015年になって、西之島の近くの火山口から溶岩が噴出、新しく島ができました。それだけでも驚くべきことなのですが、新しい島ではマグマがどんどん流出し、ついには西之島と合体。面積をさらに拡大させ、面積の単位(?)としてよく使われる「東京ドーム」では足りなくなって、「ディズニーランド5個分」と表現されています。

西之島は3000メートル級の火山の頂上が頭を出したもので、いわば「氷山の一角」みたいなもの。海水の下に膨大なエネルギーが内包された火山があったのです。よく知られているように、日本列島の周辺では4つの大陸プレートがひしめきあっていて、プレートとプレートがぶつかるところではこのような火山ができやすいのです。

現在は休火山である富士山もこのようにしてできました。富士山ができたのはだいたい1万年前と推測されています。地球の歴史からいうと、1万年前というのは相当「最近の」話といえます。だから、富士山は「新しい山」といえるのです。

富士山が新しい山であることは、高山植物が少ないことからも見てとれます。高山植物とは、高木が生育できなくなる森林限界を超えてなお生育している植物のこと。ハイマツ、コマクサ、ワタスゲなどです。富士山に高山植物が少ないのは、それは富士山が氷河期のあとにできた山だからです。

通常、高山植物が高山で暮らしているのは、もとは氷河期にやってきたものが取り残されたものです。氷河期になっていく過程で、緯度の高いところ(つまり寒い地域)を好む植物は、どんどん赤道に向かって進出し、勢力範囲を広げます。そして、あるときには暖かい場所を好む植物を駆逐し、日本列島を覆い尽くします。

しかし、氷河期が終わって地球がだんだん暖かくなると、高山植物は、今度は北に追いやられていきます。その過程で、高山植物は気温の低い高山に逃げ込みます。周りは暖かい場所を好む植物に取り囲まれ、寒い場所を好む植物は高地にだけ取り残されてしまうのです。そうして、氷河期にやってきたのちに、取り残されてしまったのが高山植物なのです。

富士山は生まれてからまだ日が浅いので、まだ氷河期を経験していないため、高山植物が少ないというわけです。ただし、高山植物がまったくないわけではなく、少しはあります。それは、風や鳥が運んだ種から発芽したものと考えられています。

1万年前にできた山でもまだ新しいだなんて、地球のスケールはすごいですね。最近は富士山の噴火が近づいているという専門家もいます。それは10年以内に起こるかもしれませんし、何百年単位で起こるのかもしれません。

富士山が噴火してマグマが噴出すれば、西之島のように山の形が変わってしまうかもしれません。もしかしたら、富士山が今の形をとどめているのも、数千年の間のことだけなのかもしれません。あんな美しい姿を拝めるのも、そんな時期に生きられた幸運といえます。多摩地区からは冬のある時期だけ、富士山に夕日が落ちていく光景「ダイヤモンド富士」が見られます。それも今だけの一瞬のなせる業なのです。