植物と昆虫 どっちがすごい?

植物や昆虫の生態や生存戦略から、人間の生き方を学ぶネイチャー・ライティング

 イネが「日本のかたち」をつくってきた?  

秋。それは実りの季節です。

この季節には多くの食物が果実をつけます。なぜ秋なのかというと、夏の太陽がたくさん照り付けるし、気温が上がるので光合成が活発になり、果実や種の生産をしやすいからとか、花粉を昆虫に運んでもらうためには彼らがいる間に受粉する必要があるからとか、冬を越せない一年草は冬が来るまでに種をつけないといけないからといった理由があります。

一年草のうちで最も有名な植物といったらなんでしょう。私たちが毎日食べているもの。そう、イネ(稲)ですね。

イネは春から秋の間しか生きられない一年草です。そのため、コメという種をつくって越冬するわけです。

日本に稲作が伝わったのは紀元前10世紀ごろといわれています。それから紀元前3世紀までを弥生時代と呼びます。弥生時代以降、この国のかたちは米を前提につくられてきました。稲作が出てきたことで、人は定住するようになり、貧富の差が出てくるようにもなりました。村の中で米を管理する必要が生まれ、組織が生まれました。すると、権力者も生まれ、政治が生まれたのです。

稲作は日本の風景も変えました。その一つの例が阿蘇山です。阿蘇山は火山灰に覆われた、緑もなく、水も流れない灰色の山でした。そこに人々は住みたいと思ったのですが、水がありません。そこで人は木を植えることにしました。苗木を背負って山へ登り、植えて回ったのです。木がないので小屋などつくれず、穴ぐらに住みながらの生活でした。そうして240万本植えたのです。

すると川ができて水が流れ出し、稲作ができるようになり、人が住めるようになりました。そんな山の景色をつくった地域が日本にはいくつもあります。

そんな稲作ですが、6月中・下旬ごろには、根の発根力(根が伸びようとする力)を促すために、「中干し」と言って10日から2週間ほど水を抜いて、田んぼを乾かす作業が必要です。これによって、イネは「やばいよ、枯れちゃうよ」と思って、必死で根を伸ばします。そうすることで、そのあとたくさんの養分を根が吸収できるようになり、甘いお米になるのです。中干しをしないとおいしいお米にならないのです。

日本人になじみの深いお米だからこんなことをしているのではありません。西洋の芝生もそうです。昨今、学校でも芝生を植えているグラウンドが増えましたが、施工業者の話では、芝生を設置したら2年目は水を控えめにすることで、しっかりと地中に根を伸ばすのがいいらしいのです。理由はイネと同じです。芝生はお米と同じイネ科の植物なのです。

乾燥は植物にとってはある意味で危機です。でも、そこを乗り越えたらぐっと成長できます。すべてが見たらされた環境でぬくぬくと育つより、修羅場を経験したほうが強くなるのは人間も同じ。

でも、それは十分に育ってからやることです。イネも苗のときに乾燥するとうまく育たないばかりか、悪くすると枯れてしまいます。芝生も乾燥させるのは2年目からです。

苗のとき、つまり幼小期まではたっぷり愛情かけてやり、少し大きくなったら、時期を見計らって逆境の時期をつくってやり、成長を促す。ぬくぬくできる家庭や親元という整えられた環境から飛び出て、逆境にも生き抜く図太さを身に着けることができたら、人間でも立派な果実が実るはずですよね。