植物と昆虫 どっちがすごい?

植物や昆虫の生態や生存戦略から、人間の生き方を学ぶネイチャー・ライティング

 ひとり勝ちは幸せか?  

ずっと勝ち続けることはどんな世界でも難しいですね。スポーツの話でいえば、古くはプロ野球巨人軍のV9というのがありました。ラグビーでは新日鉄釜石神戸製鋼のV7があります。大学スポーツでは、帝京大学ラグビー部のV9、日体大水球部は376連勝というとてつもない記録があります。

では植物の世界はどうなのでしょうか?

セイタカアワダチソウという植物がありますね。名前を知らない人でも実物を見れば、絶対に「ああ、これがセイタカアワダチソウなんだ」というと思います。それぐらいありふれていて、どこにでも生えている植物です。

このセイタカアワダチソウは北アメリカ原産の外来植物で、日本で猛威をふるっていたため、しばしばやっかいな雑草として扱われています。実は、北アメリカでは猛威をふるうといったことはなく、保護活動まで行われているほど普通の植物なのです。なぜ日本でだけ大繁殖してしまったのでしょう。

理由は、セイタカアワダチソウが根から出す化学物質にありました。その化学物質とはアレロパシーというもので、他の植物の成長を抑制するように働きます。そのため、言うなればこうした化学物質に「免疫」のない日本の植物は、見事にこの毒性物質にやられてしまい、駆逐されていったというわけです。

アメリカでは、周りの植物が、セイタカアワダチソウが出すアレロパシーの耐性を身に着けています。化学物質を防御する仕組みを発達させて、負けっぱなしにならないようにしたのです。その結果、周りの植物との力関係で、ほどよいところで調和がとれているというわけです。

しかし、日本の在来植物たちはアレロパシー耐性がなかったために、大負けしてしまっていたのです。ただ、「負けていた」と過去形になっているのがミソです。実は、最近はセイタカアワダチソウがかつての勢いがなく、それほど大繁殖しなくなってきています。ススキやオギなどの日本の野草が盛り返している箇所も少なくなくなってきています。背丈もかつては2、3メートルにもなっていたのに、いまではせいぜい1メートルか、50センチ程度で花を咲かせていたりします。

これはセイタカアワダチソウが自分の出すアレロパシーの毒におかされてしまったせいなのです。周りとの調和の中でなら、アレロパシーの自分への影響も限定的だったのに、独り勝ちしてしまうと自ら出した化学物質が自らへの毒として跳ね返ってきてしまったわけです。もしかしたら、ススキやオギといった日本の在来植物がアレロパシーの耐性を身に着けつつあるのかもしれませんが、そこはまだよくわかっていません。

いずれにせよ、一時は連勝街道を突き進むことができても、いずれはその連勝は止まってしまうということです。

栄枯盛衰は仏教の人生観ですが、セイタカアワダチソウとその周辺で生きる植物にも同じことがいえそうです。周囲に強者が表れても、自分も進化することで伍していくことができると考えれば、一時的に連戦連敗を重ねていても、それは次への進化の途上とポジティブに考えることができそうです。

逆に連戦連勝を重ねることができていてもその先で必ず負けるときが来ます。そのときでも、周囲と協調して生きることができれば、完全にいなくなってしまわないで、自分の居場所を確保して生き続けることができる。セイタカアワダチソウはそんなことを教えてくれます。