植物と昆虫 どっちがすごい?

植物や昆虫の生態や生存戦略から、人間の生き方を学ぶネイチャー・ライティング

 森林も年を取る?  

森林内の生態系を勉強して気づいたことは多くあります。森林内の生態系は人間の経済活動と大変よく似ている面があるのです。

最初に驚いたのは、森林は遷移といって、ずっと同じ姿のままとどまるのではなく、形を変えていくのだということです。

人間と同じで、森林にも幼年期、青年期、中年期、老年期があるのです。森林ではこれを「初期段階」「弱齢段階」「成熟段階」「老齢段階」といいます。何もない野原は初期段階に当たり、そこから順に段階を経ていきます。それぞれの段階では、生物多様性が高かったりそうでなかったり、保水能力が高かったりそうでなかったりします。

最初には草花など草木が生え、その次に樹木が生えます。樹木の中でもはじめのうちは、陽性樹種が占めます。つまり、日当たりのよい場所を好む樹木です。その次に陰性樹種、つまり日当たりが悪くても育つ樹木が多くを占めるようになります。最終的に「極相」という、最終段階になります。森林はこの「極相」段階になると、その状態のまま維持されます。

しかし、その極相の状態が崩されることがあります。それは地すべりや火事などです。こうした地すべりや火事などを撹乱といいます。撹乱が起きると、そこに立っていた木は倒れてしまいます。すると、その木が立っていたところには日光が差し込むようになります。すると、その地面に埋まっていた種が眠りから覚め、芽を出します。種は数百年前のものでも発芽するほど耐久性が高いので、ずっと芽を出すのを待っていたわけですね。「やっとオレの時代が来た!」といった感じです。

経済における撹乱は、戦争だといっていいでしょうね。戦争が起きると、供給過剰だった場所にぽっかりと穴が開いて、需要が発生しますよね。供給過剰だと物が売れないので、値段は下がって、企業は儲けが出ないわけですが、需要が増えれば値段が上がって、企業は儲けることができるわけです。だから、ある国なんかは定期的に戦争をしに他国まで出かけていくわけです。

木や草はそのまま物やサービスに置き換えることができそうです。極相で供給過剰になったところに、撹乱(戦争)が起こったことで需要が発生し、待ちわびた生産者がこぞってそこで生産を始めるというわけです。

森林内の生態系は経済と良く似ています。株式会社とはよく言ったものだなと思いますね。株が増えたり、株の値が上下したりするのは、植物の株が増えたり、ひとつの種からたくさんの種が取れることによく似ています。

たぶん、今の日本は経済的に「成熟段階」を通り過ぎて、「老齢段階」にあるのかもしれません。何しろ、どんなにお札を刷ってもなかなか物価は上がらないのですから。どんどん人口は減っているのに、同じペースでモノをつくり続けたことで、供給過剰になっているからですよね。

戦争をする以外にこの供給過剰を是正する道はないものでしょうか? いや、そもそも供給過剰は是正するべきものなのでしょうか?

成長することが必須であるなら供給過剰は是正すべきでしょう。でも、「老齢段階なのだから無理な成長はしなくてもいいんじゃない」という認識に立ったらどうでしょう? 少なくとも、戦争はしなくてもいいはずです。

 

 

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