植物と昆虫 どっちがすごい?

植物や昆虫の生態や生存戦略から、人間の生き方を学ぶネイチャー・ライティング

木はそんなに弱くない

「二番目の子ブタは木の家をつくりました」

「狼は木の家に向かってすごい勢いで息を吹きかけると、木の家は吹き飛ばされてばらばらになってしまいました」

イギリスの童話「三匹の子ブタ」の一場面です。この童話にはご多分に漏れず、さまざまなバージョンがあって、「木の家」だったり、「木の枝でつくった家」であったりします。ワラや木でつくった家は狼の息で吹き飛ばれてしまいますが、最後の子ブタの「レンガの家」はびくともせず、最終的に煙突から侵入した狼を、その下でお湯を沸かした鍋で撃退します。この童話で言いたかったのは、「頑丈な家でこそ安全に暮らせるよ」ということだったのではないかと思います。

幼いころからこうした童話を聞かされて育った私たちは、木よりも石やレンガのほうが強度は高いのではないかと思っています。子どものころの刷り込みというのは意外と強固なものです。実際は、木材と鉄の強度を比較すると、同じ断面積の場合は確かに鉄のほうが強いのですが、同じ重さで比べると鉄よりも1.5倍も木材のほうが強度は高いのです。

木材は軽くて強いので、昔から住宅建材として使われてきました。弥生時代の竪穴住居が終わって、飛鳥時代になると、もうしっかりとした木造建築ができあがっています。1993年に日本で初めてユネスコ世界遺産に登録された奈良の法隆寺は、完成後1300年はゆうに経過しており、世界最古の木造建築とされています。それだけ日本は木材の使い方に長けていたのですね。

日本では木材が豊富だったので、木を使う文化が発達しました。ところが、「三匹の子ブタ」のイギリスでは、そうではなかったのでしょう。そのかわりレンガの製法が発達したのだと思われます。「三匹の子ブタ」の2番目の子ブタの家は、「木の家」とはいってもそれは「枝の家」でした。元はハリエニシダというマメ科の常緑低木でした。写真で見ると、地面から株立ちしていて、幹が太く成長する様子はなく、細い枝がいくつも地面から出ているようです。こんな細い枝なら、ワラの家と同じく、風(狼の息)で簡単に飛ばされてしまうかもしれません。

ハリエニシダはヨーロッパ原産で、乾燥した砂地や荒れ地によく生える植物です。いわゆるやせ地ですね。それだけ土地が豊かでなかったということでしょう。でも、日本は土壌が豊かなので、大きな木も育つことができ、法隆寺のような立派な木造建築をつくれる技術が発達しました。

今、日本では戦後に植林した人工林が切って使うのに適した大きさに成長してきていて、余っています。そのため、豊富な木材を使って公共施設やビルなどに活用する取り組みが進んでいます。「三匹の子ブタ」の呪縛が解かれてきて、木は軽くて強いという認識が進んだからです。今後、全国で新しく建つ公共施設にはたくさんの木が使われているのを見ることができるでしょう。

三階建て以上の木造建築もこれから増えそうです。考えてみれば、各地に昔につくられ、今でもしっかりしている五重塔がありますから当然といえば当然なのかもしれません。

やはり木のぬくもりというのはいいものです。木の家とコンクリートの家では居心地が違うと思うのは私だけでしょうか。木に囲まれて暮らす。それが心地いいのは、人間が昔、森に棲んでいたからではないかと思うのです。