植物と昆虫 どっちがすごい?

植物や昆虫の生態や生存戦略から、人間の生き方を学ぶネイチャー・ライティング

「森は水をつくる」は本当か?

「外国人が北海道の水源地を買っている。政府はこんなことを許しておいていいのか!」

数年前、そんな問題が持ち上がったことがありました。水源地は二束三文で、日本人は誰も興味を示さないような場所です。そこを訪れた中国人が観光のついで(!)に買っていったといわれています。なんでも、中国では土地は国家のもので、土地の所有は基本的に認められず、開発するときは借用しているだけなのだというのです。だから、「自分の土地」として買えるのがうれしくて、つい(!)買ってしまったというのです。

この話題を取り上げたいくつかの記事を読んだのですが、真相は闇の中といった感じでした。

人のものになりそうになるととたんに物惜しみする……昔、自分の嫁さんが他人に取られそうになってはじめて嫁さんを愛そうとする、滑稽な男の物語を読んだのを、私は思い出しました。水源地の話もこれと似たようなところがあります。

でも、水源地にある森林は、確かに水を確保するためには重要な役割を果たしてはいます。でもそれは、「水をたくさん確保する」ためではありません。なぜなら、森林は裸地(地面が植物などに覆われておらず、土、岩石がむき出しになった土地)よりもたくさんの水を消費するからです。

植物には水の蒸散作用があります。植物が根から吸い上げた水分は、いうまでもなく、光合成のために使われ、一部は植物本体に蓄えられます。余った水は気孔から外に出してしまうわけですね。

植物が根から水分を吸い上げるためには、吸い上げた水が出ていかなければならないからです。

そういうわけで森林は水を大量消費するのです。

でも「水の確保」のためには森林が必要なのです。

植物が繁茂すると、根が土の中を伸びていきます。そこへ小さな微生物から小さな昆虫レベルのものまでたくさんの生物が土の中を行き交います。すると、土の中に大小の穴ができるわけですね。そこに水分がしみこみ、スポンジの穴のように水分をしっかり保持します。

森林のある土壌は、水をたくさん保持しておくことができるので、たくさん雨が降っても一気に河川に流れ込むことはないし、晴天が続いても簡単には渇水しません。これが常に川に水が流れている理由です。

このように、河川に流れる水を一定にする森林の機能を、水量平準化といいます。

さらに、水が土壌を通っていくとき、さまざまな土の中のミネラルが水に溶け出します。これがミネラルウォーターのできる理由です。この森林の機能を水質良化といいます。

「森林が水をつくる」の意味は、「たくさんの水をつくる」という意味ではなく、良質な水をつくるという意味なのです。

最近、里海という言葉がよく出てくるようになりました。川から良質な水が海に流れ込むことによって、海に豊富な魚介類が育つので、そうした川や森を一体としてとらえた生態系を育てることで、海を豊穣なものにしようということです。

かつて江戸時代、利尻昆布で有名な利尻の人たちは、良質な昆布を取るために山に木を植えたといいます。森が海を育てることを知っていたのですね。

いま里山に加えて、里海が世界で通じるグローバルワードになりつつあります。

自然っていろんなところでつながっているのですね。